システム開発を依頼する際の手段のひとつとして注目されている「オフショア開発」。
本記事では、オフショア開発によるシステム開発支援を提供するマイナビTechTus Egineeringが、オフショア開発が注目される背景からメリット・デメリット、委託先としておすすめの国、失敗事例や成功のポイントまでわかりやすく解説します。システム開発の依頼をご検討中の方は、ぜひご活用ください。
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目次
まずは、オフショア開発の定義、注目される背景、オンショア開発・ニアショア開発との違いについてみていきましょう。
オフショア開発とは、ソフトウェア開発やシステム開発などの業務を、海外の企業や拠点に委託する開発手法のことです。一般的には、アジアや東欧といった開発コストを抑えやすい地域へ委託することが多いです。
オフショア開発は、開発コスト削減や日本国内で深刻化するIT人材不足に対応するための手段として注目されている一方、コミュニケーションや品質面でのリスクもあると言われることも多いです。このためオフショア開発は、システム開発プロジェクトの規模や内容に応じて適切に活用することで、開発効率や競争力の両立を実現できる選択肢といえるでしょう。

近年、オフショア開発が注目される背景には、社会・経済的状況などのさまざまな要因があり、具体的には「日本国内のIT人材不足」「開発費の高騰」「海外IT人材の技術力の向上」などが挙げられます。
日本国内では、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進やソフトウェア需要の増加に伴い、システム開発のニーズは拡大し続けています。
一方で、エンジニアなどのIT人材は慢性的に不足しており、新卒採用や中途採用だけでは必要な人材を賄いきれない現状があります。
経済産業省によれば、日本国内のIT人材は2030年までに最大79万人不足すると予測されています。

(画像参照:経済産業省)
特に、開発経験のある中堅・ベテラン人材の採用が難航したり、中小企業では人材確保が難航するケースも多く、開発プロジェクトの遅延や品質低下を招くリスクが高まったりすることも少なくありません。こうした課題への解決策として、海外のIIT人材を活用するオフショア開発が注目されているのです。
日本では人件費や物価の上昇、採用コストの増大により、システム開発にかかる費用が年々増加傾向にあります。一般社団法人日本ニアショア開発推進機構のデータによると、2015年から2023年の8年間で約3割の単価上昇を確認できます。

(出展:一般社団法人日本ニアショア開発推進機構)
特に、優秀なエンジニアの確保には高い報酬が求められ、中小企業にとって人材を確保するだけでも大きな負担となっています。このような状況下で、比較的コストの低い海外のエンジニアを活用できるオフショア開発は、費用対効果の高い手法として支持を集めています。
近年、海外では国家レベルでのIT教育やエンジニア育成に力を入れる国もあり、優秀な人材が数多く輩出されています。AIなどの先端技術への対応力も高まっており、日本企業にとって魅力的な人材であるともいえるでしょう。
こうした背景から、かつてはコスト削減目的で活用されていたオフショア開発も、現在では「高品質な開発人材の確保」として戦略的に導入されるケースが増加しています。
さらに、日本企業との連携実績が蓄積されたことで、現地エンジニアの日本語対応力や日本企業向けの開発ノウハウも向上しており、プロジェクトの成功確度も高まっています。
海外IT人材の技術力の進化は、オフショア開発を「単なる外注先」から「長期的な開発パートナー」へと位置づける流れを加速させています。

システム開発の委託方法にはオフショア開発のほかに、オンショア開発・ニアショア開発という手段があります。 違いを比較していきましょう。
オンショア開発とは、自社の所在する国内の開発会社に開発業務を委託する方法です。地理的・文化的なギャップがなく、対面でのコミュニケーションも容易な点が特徴です。
ニアショア開発は、地方都市などコストの比較的低い国内エリアに業務を委託する開発形態で、オンショアよりもコストを抑えつつ、言語や文化の差が少ないという利点があります。
オフショア開発には、メリット・デメリットがそれぞれ存在します。それぞれ見ていきましょう。

オフショア開発のメリットについて、人材、スピード、コストの3つの観点から紹介します。
日本国内の慢性的なエンジニア不足のなか、オフショア開発の大きなメリットのひとつは、IT人材の確保が容易な点です。英語や日本語での業務が可能なエンジニアが多数存在する国もあり、スキルや専門分野に応じて柔軟に人材を確保しやすいです。
また、開発プロジェクトごとに最適な人員を短期間で活用できる点は、急な開発ニーズにも対応しやすく、国内採用の負担を軽減する大きな助けとなります。このように、グローバルな人材活用の観点からも、オフショア開発は効率的かつ持続可能な開発体制を築くうえで有効な選択肢といえるでしょう。
オフショア開発によるIT人材の迅速な確保は、開発スピードの向上、ひいては企業の競争力強化にも貢献します。
たとえば、日本国内で新しいシステム開発プロジェクトを立ち上げる際、経験豊富なエンジニアを採用・育成するには数カ月以上かかるのが一般的です。一方で、オフショア開発では、すでに体制の整った海外の開発拠点と連携することで、数週間単位でチームを編成し、スムーズに開発をスタートできます。必要なスキルを持った人材を即時に配置できる点は、プロジェクトの立ち上げスピードを大きく左右します。
さらに、現地拠点と時差を活かした開発体制を構築することで、開発の“止まらない運用”も実現可能です。これにより、製品リリースまでの期間が短縮され、他社に先んじた市場投入が可能となります。
開発コストの削減につながる可能性が高い点もオフショア開発のメリットです。
日本国内でシステム開発を行う場合、高騰する人件費や設備、採用・育成にかかる経費などが総合的なコストを押し上げています。特に中長期にわたる大規模開発では、開発人材の確保と維持に多額の予算が必要です。
一方、オフショア開発では、人件費が比較的低い地域のエンジニアに業務を委託することで、同等の品質を担保しつつ費用を抑えることが可能です。たとえば、国内エンジニアの1人月単価が80万円を超える場合でも、オフショアでは8割程度〜半額以下で対応できるケースもあり、プロジェクト全体のコストに大きな差が生じます。

メリットの多いオフショア開発ですが、慎重に対応すべきデメリットも存在します。ここでは、コミュニケーションや品質・進捗管理、コストメリットについて説明します。
オフショア開発のデメリットのひとつに挙げられるのが、コミュニケーションコストの高さです。
海外の開発チームと連携する際には、言語の違いや時差、文化的な背景の違いにより、意思疎通にかかる時間と労力が増加する傾向があります。たとえば「仕様の詳細は後日共有する」と曖昧に伝えた結果、海外チームが誤解して開発を進めてしまい、修正対応に多くの工数が発生したケースもあります。
また、時差のある国をパートナーとする場合、リアルタイムなやり取りが難しく、1日のやり取りが1〜2往復に限定されることもしばしばです。これにより、進捗確認や不明点の解消が遅れ、結果としてプロジェクト全体のスピードや品質に影響を及ぼす可能性があります。
品質や進捗の管理に手間がかかる点も、オフショア開発のデメリットとされることが多いです。
海外のチームと協働する場合、開発のプロセスや品質基準が委託先の国・企業によって異なるため、日本企業が期待する成果物とのギャップが生じるケースがあります。たとえば、テストの粒度が異なり、「テストが完了した」という報告を受けたものの、実際には不具合が多く含まれていたという例も報告されています。
また、進捗状況の可視化が難しい点も課題のひとつです。異なるタイムゾーンでの作業となる場合、リアルタイムでの確認やすり合わせが困難であり、意思決定のスピードが遅れる可能性があります。定例会議の頻度が少なければ、認識ズレの発見が遅れ、最終的な納品遅延にもつながりかねません。
オフショア開発は一般的にコスト削減の手段として期待されますが、案件の規模や内容によっては、必ずしもコストメリットが得られるとは限りません。
たとえば、国内であれば不要な翻訳作業が発生したり、時差を考慮した進行管理をしたりすることなどにより、コストが割高になる傾向があります。その結果、最終的なコストは国内開発と同等か、かえって上回る場合も少なくありません。
特に小規模な開発案件では、現地の開発チームとの調整や管理工数が相対的に大きくなり、人件費の差以上にコミュニケーションや品質管理に伴うコストが発生することがあります。わずか数画面のWebシステム開発を海外のチームに依頼した際、仕様確認やレビューに時間を要し、国内開発のほうが迅速かつ安価に対応できたという例もあります。
このように、オフショア開発の費用対効果は案件の規模や性質に大きく左右されるため、導入前には十分な検討が欠かせません。
オフショア開発の委託先として人気の国には、それぞれ強みや特徴があります。ここでは、多くの企業が活用している主要な国をランキング形式で紹介します。
| 順位 | 国名 | 特徴 |
|---|---|---|
| 1位 | ベトナム | 技術力・柔軟性・日本企業との親和性が高い |
| 2位 | 中国 | 豊富な人材と大規模開発の実績がある |
| 3位 | インド | 世界有数のIT人材大国で、AIやクラウド分野にも強みがある |
| 4位 | ミャンマー | 英語力が高く、BPO業務なども盛んでスムーズな対応が可能 |
| 5位 | 東欧諸国 | 若年層の成長市場でコスト競争力があり、徐々に注目を集めている |
(出展:オフショア開発白書(2024年版))

オフショア開発の委託先として、特に人気を集めているのがベトナムです。
近年、ベトナムは政府主導でIT教育を強化しており、若く優秀なエンジニア人材が数多く輩出されています。さまざまな開発言語への対応はもちろん、AIやブロックチェーンなど先端技術にも柔軟に対応できる技術力が魅力です。また、日本企業との取引実績が豊富で、業務フローや品質基準に対する理解度も高まりつつあります。
さらに、ベトナム人エンジニアは課題への柔軟な対応力にも定評があり、プロジェクト中の仕様変更や要件調整にも臨機応変に対応可能です。日本との時差がわずか2時間と少ない点も、打ち合わせや進行管理の面で有利です。
このように、人材や対応力のバランスが取れた国として、オフショア開発の委託先にベトナムを選ぶ企業が増えています。

ここでは、オフショア開発の成功・失敗事例を紹介します。それぞれの結果につながった要因を通じて、失敗を避けるための対策を考えていきましょう。
大手SIerがベトナム企業に委託したプロジェクトでは、週2回の定例ミーティングとリアルタイムのタスク管理を徹底し、日英の仕様書を併用しました。これにより意思疎通の精度を高め、国内開発と同水準の品質と納期でのリリースに成功しました。
ある中小企業では、短納期・低コストを目的に東南アジアの企業とオフショア開発を開始しました。しかし、初期の要件定義が曖昧だったため、機能の解釈にずれが生じ、開発のやり直しが発生。成果物の品質に課題が生じただけでなく、納期も予算も大幅に超過する結果となりました。
より具体的な事例は、オフショア開発支援を提供するマイナビTechTus Engineeringの事例をご覧ください。
こうした失敗を防ぐためには、要件を視覚的に整理し、丁寧に言語化することが重要です。次の項目で具体的に見ていきましょう。

海外との距離や文化の違いを乗り越え、オフショア開発を成功させるには、工夫も必要です。ここでは、オフショア開発の成功のポイントを紹介します。
オフショア開発で成功するには、システム開発の初期段階における要件定義の精度が極めて重要です。要件定義の整理の方法としては、以下があります。
たとえば「ユーザー登録機能を開発してほしい」という要望だけでは、入力項目やエラーメッセージの表示方法などが開発側に正確に伝わらない可能性があります。
仮にユーザー登録機能に関する要件を検討する際は、以下などの検討が必要です。
要件を詳細まで検討しドキュメント化するには手間がかかりますが、口頭説明だけではなく証跡を残すことが大切です。
システム開発ではさまざまな機能において細部を検討するため、あとの工程でドキュメントを参照しながら開発を進め、齟齬が発生した際もドキュメントを確認することが多いです。このときドキュメントがない場合、依頼者・システム開発会社の間で「言った・言わない」と議論が並行してしまうことも少なくありません。こうした状況を防ぐためにも、仕様のドキュメント化を心がけましょう。
要件をドキュメント化する際は「誰が読んでも同じ解釈になる」開発ドキュメントを用意することが必要です。
ここで有効なのは、ドキュメントをできる限り視覚化することです。ワイヤーフレームや画面遷移図、業務フロー図などを活用したり、用語定義や業務背景などの前提知識を文書化したりすると、理解のズレを最小限に抑えられます。
マイナビTechTus Engineeringは、お客さまへのヒアリングをもとに日本人担当者が要件を整理・図式化し、ベトナムの開発チームへ共有することでシステム開発の認識合わせを行なっています。

オフショア開発を円滑に進めるためには、言語・文化の違いを乗り越えるコミュニケーションの工夫が不可欠です。ツールや運用ルールを適切に活用することで、スムーズな連携体制を築くことをおすすめします。具体的には以下の方法などがあります。
日々のやり取りにはチャットツール(例:Slack、Microsoft Teamsなど)を活用することで、リアルタイムな情報共有が可能になります。業務内容ごとにチャンネルを分け、議論のログを可視化することで、認識のズレを防ぐ効果も期待できます。
週1〜2回程度の定例会議をWeb会議ツール(ZoomやGoogle Meetなど)で実施することで、課題や進捗を直接共有でき、チームの一体感が高まります。資料を画面共有しながら議論を進めることで、齟齬のない共通認識を築くことができます。
開発ドキュメントで日本語と英語を併記するなどにより、双方向の理解を促進できます。この際、自動翻訳ツールなどを活用すると、意思疎通の効率化にもつながるでしょう。
言語や文化の違いがある海外チームと連携する際、あいまいな指示は、誤解や手戻りを招く大きな原因となります。質問や依頼をする際は「誰に・いつまでに・何をしてほしいのか」が明確になるように伝えること、なるべく短文で簡潔に記載することが円滑なコミュニケーションのポイントです。

(出展:株式会社ヌーラボ)
オフショア開発においては、距離や時差、言語の壁がある分、進捗と納期の管理を可視化する仕組み作りが重要です。見える化が不十分だと、開発の遅延や品質問題に気付きにくく、納品遅れやコスト超過の原因となります。
このようなリスクに対応するには、確認の仕組み(例:タスク管理ツールや定例会議)やルールを明文化し、徹底することが大切です。具体的には以下のような方法が良いでしょう。
ガントチャートを導入すれば、プロジェクト全体のスケジュール進行を視覚的に把握でき、納期遵守への意識づけにもつながります。オフショア開発では、こうした透明性のある運用が、チーム間の信頼構築にも寄与します。
タスク管理ツール(例:Backlog、JIRA、Trelloなど)を活用して、誰が・何を・いつまでに行うかを一目で把握できるようにすることが効果的です。各タスクには担当者・期限・進捗状況を明記し、ステータス(未着手・進行中・レビュー中・完了など)を随時更新することで、管理者はリスクを早期に検知できます。
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